レポート日記
一覧に戻る九州大学でソーシャルビジネスを学ぼう!~世界の貧困、そしてぼくらの身近な社会問題の解決方法~
開催日:2011年01月22日
通常授業
【今回の先生】 岡田 昌治(九州大学 特任教授)
【今回の教室】 九州大学箱崎キャンパス統合新領域学府ユーザー感性学専攻棟7F多目的演習室
福岡テンジン大学、2011年最初の通常授業は九州大学での開催でした。大学を卒業して社会人になった方、大学へ行ったことがない方、そして現役大学生の方々37名が九州大学の教室でグラミン・グループのソーシャルビジネスについて学びました。
ソーシャルビジネスは、貧困や環境問題など社会の課題をビジネスのしくみを応用して解決する一つの手法として近年注目を集めています。現在、九州大学ではムハマド・ユヌス氏が取り組むグラミン・クリエイティブ・ラボと提携し、社会貢献事業に関する活動を行っています。ムハマド・ユヌス氏は、高利貸しに苦しみ貧困状態から抜け出せない人々のために無担保小口融資を行うグラミン銀行を立ち上げ、バングラデシュの貧困問題に取り組んでこられました。2006年に“貧困層の社会的経済基盤を構築した”としてノーベル平和賞を受賞されたことにより、ソーシャルビジネスの第一人者として日本でも広く知られることとなりました。今回の授業では、ユヌス氏の著書「ソーシャルビジネス革命」を事前に読んで授業に参加するようアナウンスがありました。
キリリと晴れた土曜日の午後、授業開始の30分前から学生の皆さんが集まり始めました。机の上には「ソーシャルビジネス革命」の本、そう今回の課題図書です。時間通り13:30から授業が始まりました。まずは、授業コーディネーターの谷口さんからのご挨拶と注意事項から。「指定の本を読んできた人どれぐらいいますか?」の問いかけにほぼ全員の手が上がりました。学生みんなのモチベーションの高さにスタッフ一同感動です!
授業は、岡田先生の自己紹介から始まりました。福岡は川端出身の岡田先生、NTT時代に暮らしたシアトルやニューヨークより福岡の方が魅力的なんだとか。福岡を世界でいちばん魅力的な街にしたいテンジン大学にとっては嬉しいお言葉です!ユヌス氏とは2年前に神戸大学で出会って以来、最もユヌス氏と長く過ごした日本人と自負されていました。ユヌス氏と共に会った中田英寿さん、滝川クリステルさん、柳井正さんのエピソードなども紹介しながら、ぐいぐいと学生の気持ちを惹きつけていきます。
■Selfish mindとSelfless mind “私と無私”
ソーシャルビジネスのキーワードとなるのが、無私すなわち利他心です。利益の最大化を一途に追い求めてきた従来のビジネスに対して、他者の役に立つという喜びを報酬とするのがソーシャルビジネスなのだそうです。無私の心は人間の根源的な性質といえます。
それから、美(=アート)も大事な要素だそうです。グラミングループではグローバル・グラミン・ミーティングを開催していますが、その際「美しくやること」「上質にやること」が重視されるとのこと。岡田先生が主催するワークショップでテーブルに花を一輪さすのも同じ理由からだそうです。美を求めるのもまた人間の根源的な性質なのです。
■足と頭を使おう!
では、社会の中で「この問題をなんとかしたい!」と感じた時や「ソーシャルビジネスを始めたい」と思った時はどうすればいいのでしょうか?岡田先生は「足と頭を両方使わないかん」と力説されていました。つまり、自分の足を使って問題の背景、原因、実態をつぶさに調べ、頭をフル回転させて問題解決のための事業計画を練り上げること。それは時に既存の枠組みを軽く飛び越えるクリエイティブな仕事なのだそう。
例えば、地域で一人暮らしの高齢者向けのコミュニティバスを走らせたいと考えた場合、バスの停留所の間隔などの運行について“条例で決まっているから”という壁にぶちあたり、事業計画がストップしてしまうかもしれません。でもそこで引き下がるのではなく、条例を変えたり特区の申請をしたりして壁をブチ抜いていくことがクリエイティブなことなのだと熱く語る岡田先生。学生もメモを取ったり、うなずいたりしながら真剣に聞いていました。
■社会全体へのソーシャルビジネスの普及と促進のために
社会には個人、企業、行政、芸術家、スポーツ、メディアなど様々なプレイヤーが存在しています。ソーシャルビジネスを広げていくためには、そういったプレイヤーとの協力が不可欠とのこと。
岡田先生は、今年7/18-24のユヌス氏来日に合わせて宗像市にあるグローバルアリーナでパーティーを企画されているそうです。アジア太平洋こども会議との合同パーティーで、ゲストとして歌うのはなんとMISIAさん。有名人やスポーツ選手の中には、一個人として社会貢献したいと思っている人がいるのです。海外の大物俳優の中には、エージェントとの契約をいったん停止してまで自費でソーシャルビジネスを支援している人もいるのだとか。有名人や財団から拠出される110兆円とも言われるボランティアマネーがソーシャルビジネスを推進する原資となることからもわかるように、それぞれのプレイヤーと協力していくことが重要です。
■日本の良きDNAを再び
「古来、日本には近江商人の三方良しのようなソーシャルビジネスの土壌があった」と岡田先生は言います。海外の会議などで岡田先生がプレゼンテーションを行う際、マイクロファイナンスのことを Microw Finance と表記するそうです。これは日本の“烏金”(カラスは英語でcrow)との掛詞になっています。烏金は日本古来の金融で、文字通り朝カラスが鳴いた時に金を貸し、夕方カラスが鳴いた時に返してもらうというシステムだそう。皆さん知っていましたか?行商を営む人が朝仕入のためにお金を借り、1日の商売で得た売り上げから返済する小口融資がうまく機能していたのです。こうしたことを説明すると、海外の人は驚きとともに大受けするのだそうです。この他にも、老舗企業の多さや企業内給与格差の低さなど日本の長所が紹介されました。
続けて岡田先生は「明治維新から二度の戦争と高度経済成長を経験し封印した日本の良きDNAを再び取り戻すには今しかない!」と熱く語りかけられました。
岡田先生はソーシャルビジネスを育てるため、グラミン・クリエイティブ・ラボでワークショップ等に取り組まれているそうです。今回の授業に参加できなかった方、授業を聞いてもっと知りたくなった人は是非そちらへご参加下さい。
■福岡テンジン大学白熱教室!?
岡田先生のお話が終わったところで、後半の45分は質疑応答に充てられました。グラミンの活動やソーシャルビジネスについての質問を3つ考えた後、質疑応答タイムに入りました。
「なるべく多くの質問に答えたいので1分を目安に答えていきます。じゃ、質問のある人!」
という岡田先生の呼びかけに次々と手が上がりました。「なんでバングラデシュだったんですか?」という素朴な疑問からソーシャルビジネスマーケットの課題といった専門的な内容まで20以上の質問にテンポよく答えていく岡田先生。熱気あふれる教室の空気でエアコンの設定を変えた程でした。そして予定の時間はあっという間に過ぎ、授業終了となりました。
授業が終わった後も岡田先生と学生入り混じっての名刺交換が行われるなど、終始学生の皆さんの意識の高さを感じる授業でした。運営スタッフも一学生として授業を受け、福岡テンジン大学を持続可能なソーシャルビジネスにするためのヒントをたくさん得られました。岡田先生、参加してくれた学生のみなさん、どうもありがとうございました!
(ボランティアスタッフ 日名子美千代)