レポート日記
一覧に戻る脱都会!農業という生き方の選択 ~自給自足暮らしの全貌~
開催日:2011年02月26日
通常授業
【今回の先生】 片桐 慎 (しんくみ農園)
【今回の教室】 大名公民館 4F・講堂
「新規就農者の増加」「若者への就農支援」といった見出しを最近みかけませんでしたか?
「過疎化」、「農家の高齢化」など暗いニュースに射す光明。いままた目を向けられる農業という産業。しかし、記事には描かれない裏側に、人間ドラマがある。都会を離れ、自給自足暮らしをはじめた片桐先生を講師に迎え、自給自足暮らしをはじめた経緯、そこに込められた思いを教えていただきました。
未だ晴れ伝説が続くテンジン大学授業日。2月第4土曜日のこの日も、2月の終わりを告げる柔らかい陽が差しました。授業会場は大名公民館です。
本日の先生は、福岡県田川郡川崎町に“しんくみ農園”を作った片桐慎 先生。
合鴨農法という合鴨を利用した有機農業を行っています。
○「安・楽・速」。
これは片桐先生の自給自足の暮らしにおけるモットーです。
安全で安心で安く、楽チンで、そして速く済ませる。
ゆったりと流れる時間のなかで、憧れの薪ストーブを前に、炎の揺らめきをながめ、マツボックリをぱちぱちと燃やす。ジャズの音に身をゆだね、自ら仕込んだライスワインをたしなむ。「安・楽・速」から生み出される極上の時間だそうです。
○「今を生きる」
自給自足暮らしを実践する片桐先生ですが、2004年に福岡に身を移す前までは東京で暮らしていました。サラリーマン家庭で育った片桐先生。学生生活を過ごすなかで漠然と“どう生きるべきか”ということを考えていました。
そんななか、片桐先生の心を揺るがす機会に遭遇します。
大学時代に参加したワークショップでの農業原体験。「にわとりの解体」と「下肥の汲み上げ」の体験から、「自分は自分以外のものの命をもらって生きている」、そして、「ひとつの命は新たな命へと繋がっていく」、“循環”を感じたのでした。
テトラポットで生活するホームレスのひろしさんとの出会い。片や、すねかじりの大学生であった片桐先生に対し、生きることに真剣なホームレスのひろしさん。人間のたくましさ、強かさ、そしてシンプルな生活の大切さを知りました。
写真事務所でのアシスタント時代。過酷な労働、上司の人格を否定するような発言を目の当たりにします。「人生は地位ではない」という強い思いを抱きました。
そして、奥さんと出会います。同じ趣味を持つ二人は、平日働き休日市民農園という生活を行っていました。子どもができたときに、田舎で子育てがしたいという思いが沸き起こり、ちょうどその機会に友人から九州の祖母宅を紹介されたのでした。下見に訪れた片桐先生はこの土地を一目ぼれ、田川郡川崎町に日本の原風景をみたのでした。
今を充実させる。今を楽しむ。「今を生きる」という信念が片桐先生の背中を押し、なんと二ヶ月後には引越しを済ませてしまったのでした。
○もらう・かりる・ひろう
最初は「おままごと」と揶揄されていた農園生活も、農家の先生に師事し、農法を学び、地域の行事に参加し、少しずつまちに溶け込んでいきました。驚いたことに、農機具はほとんどもらいものなのだそうです。
授業参加者のなかに就農を考えている方もいらっしゃいました。
片桐先生は新聞の掲示板を利用して、トラクターをとても安く手に入れたそうです。
○時間とお金
一日のスケジュールはという生徒の質問がありました。テレビもケータイも持たない片桐先生は、時計も持たないのだそう。時間を示すのは、12時の川崎音頭と17時のサイレン。
自分でここまでやると決めて取り組むのだそう。まさに、晴耕雨読ですね。
片桐先生はミヒャエル・モンデの「モモ」という“時間どろぼう”の話を例に出し、「時間とお金」の話をしてくださいました。時給というのはつまり、人生を切り売りしてお金を得ているということ。お金は大事だが支配されてはいけない。田植えのぬかるみ、懐かしい焚き火の香り、沈んでいく夕日、片桐先生の生きている実感はそこにあるといいます。
○都会と田舎
片桐先生はご夫妻で、川崎町の魅力を伝えるさまざまな活動に取り組んでいます。都会に住んでいる人が田舎を訪れ、自然の魅力を知る。また一方で、田舎暮らしの人が土地の魅力を再認識することができる。都会の魅力も田舎の魅力も知っている片桐先生だからこそ説得力を持って伝わってきます。
優しい笑顔で、淡々と話す片桐先生でしたが、その背景には、重ねた苦労と、強い信念がありました。日々の中にあるはずの大切なことが忙殺されているのではないか。自分のことも、自分のまわりのサイクルも、あらためて考えてしまうような問いを投げかけられた気がしました。
さあ第二弾はしんくみ農園にて体験授業!!(予定?)
(ボランティアスタッフ 青柳雄太)